故意に関する次の各【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち,誤っているものはどれか。
【見解】
A.故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであるところ,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実とが,「およそ人を殺す」という点で一致していれば故意が認められる。また,行為者の認識した客体に対しても,結果が発生した客体に対しても故意犯が成立する。
B.故意の有無については,構成要件を基準にして判断すべきであるところ,殺人罪においては,行為者の認識した事実と発生した事実とが,「その人を殺す」という点で一致していなければ故意は認められない。
【記述】
1.甲が,Xを焼死させようと思い,Xの全身に灯油をかけて火をつけたところ,Xが熱さに耐えかね,火を消そうとして近くの湖に飛び込んで溺死したという事例においては,A,Bいずれの見解でも,甲に殺人既遂罪が成立する。
2.Aの見解に対しては,甲が殺意をもってXを狙い拳銃を発射したところ,弾丸がXの腕を貫通した上,予想外にYの胸部にも当たり,Xを負傷させるとともにYを死亡させたという事例において,行為者に過剰な故意責任を課すことになり,責任主義に反するとの批判がある。
3.Bの見解によれば,【記述】2の事例で,甲にYに対する殺人既遂罪が成立する。
4.Bの見解に対しては,客体の錯誤と方法の錯誤のいずれに当たるのかが必ずしも明らかではない場合において,故意の有無につき,どのように判断するのか明確ではないとの批判がある。
5.Bの見解によれば,甲がXを殺害しようと考え,Xと似た者を見付けて,Xと思い,その者をナイフで刺し殺したが,実際には,その者はYであったという事例において,甲にYに対する殺人既遂罪が成立する。
「令和2年 短答式試験 刑法」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/001326055.pdf)をもとに作成