次の【事例】に関する後記アからエまでの各【記述】を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
【事例】
甲は,某所公園内において,ベンチ上に置いてあるバッグ1個(以下「本件バッグ」という。)を発見し,誰かが置き忘れたものと考え,警察に届け出るため,これを手に取り,同公園から路上に出た。一方,本件バッグをベンチに置き忘れたことに気付いたVは,同公園に戻ろうとして同路上に至ったところ,甲を発見した。Vは,甲が本件バッグを盗んだと疑い,「バッグを返せ。」と言いながら,甲の腹部を2回足で蹴り,甲から本件バッグを奪い,さらに,甲を蹴り上げるような仕草を続けた。甲は,Vの暴行を避けようとして,その胸付近を1回平手で突いたところ,その勢いでVが後方に転倒し,後頭部を路面に打ち付け,失神した。甲は,その頃には,Vが本件バッグの所有者であると分かっていたが,Vの態度に怒りを覚えたことなどから,本件バッグを自己のものにしようと考え,失神しているVからこれを取り上げて自宅に持ち帰った。
その後,甲が本件バッグ内を確認したところ,V名義の預金口座のキャッシュカード等在中の財布,V所有の携帯電話機等の物品が入っていた。甲は,これらを見て,Vの氏名,勤務先のほか,携帯電話機にわいせつな盗撮画像が保存されていることを知り,これを奇貨とし,Vから上記キャッシュカードの暗証番号を聞き出して上記口座から預金を引き出そうと思い,勤務先にいたVに電話をかけ,「あんた盗撮してるな。警察に携帯を持って行かれたくないなら,あんたのキャッシュカードの暗証番号を教えろ。」と要求するなどした。Vは,この要求を断れば,盗撮の事実が警察に露見すると思い,やむを得ず甲に同暗証番号を教えた。その後,甲は,上記キャッシュカードを用いて現金自動預払機から現金50万円を引き出した。
【記述】
ア.甲が本件バッグを警察に届け出るために某所公園内から持ち出した行為は,Vによる占有の回復を困難にする行為であるため,窃盗罪又は占有離脱物横領罪が成立する。
イ.Vは本件バッグを甲から取り返す目的で暴行を加えており,この暴行は正当行為に該当するため,甲がVの胸付近を1回平手で突いた行為の違法性が阻却される余地はなく,甲には,暴行罪又は傷害罪が成立する。
ウ.甲が本件バッグをVから取り上げた行為は,甲の暴行に起因するVの失神状態に乗じて本件バッグの占有を取得したといえるため,強盗罪が成立する。
エ.甲が現金自動預払機から現金50万円を引き出した行為は,甲が,これに先行してVから暗証番号を聞き出した時点で,Vの預金の払戻しを受け得る地位を得たことにより,その預金の占有を取得したといえるため,窃盗罪は成立しない。
1.0個
2.1個
3.2個
4.3個
5.4個
「令和2年 短答式試験 刑法」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/001326055.pdf)をもとに作成