公務執行妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.窃盗犯人甲は,その窃盗行為を目撃した警ら中の制服警察官乙からその窃盗の機会に現行犯逮捕されそうになり,逮捕を免れるため,乙に対して,その反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加えて抵抗し,そのまま逃走した。甲には事後強盗罪が成立し,これに公務執行妨害罪は吸収されるから,同罪は成立しない。
2.甲は,税務署の職員乙が甲宅において税務調査をしていたところ,乙の近くでその調査を補助していた民間人である丙に対し,「殺すぞ。」などと危害を加える旨申し向け,これにより乙の職務の執行を一時中断させた。甲は乙を直接脅迫したものではないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
3.甲は,制服警察官乙から職務質問を受けている丙の右手をつかんで引っ張り,その場から一緒に走って逃走したところ,これを追い掛けた乙が,走りながら,丙の肩をつかもうとして手を伸ばしたが,その肩をつかめずにバランスを崩して路上に転倒した。甲の丙に対する行為は乙に対する暴行とはいえないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
4.甲は,警ら中の制服警察官乙が職務質問をしようとしてきたことから,これを免れるため,乙の職務質問開始前に乙に暴行を加え,乙がひるんだ隙に逃走した。乙が職務質問を開始する前に暴行を加えたにすぎないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
5.甲は,制服警察官乙から丙が職務質問を受けているのを見て,これをやめさせようと拳大の石塊を乙に向けて投げ,その臀部に命中させたが,乙が職務質問を中断することはなかった。現実に乙の職務の執行を妨害するに至っていないから,甲には公務執行妨害罪は成立しない。
「平成28年 短答式試験 刑法」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/001182605.pdf)をもとに作成