司法試験短答式試験過去問題一問一答

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平成20年 刑事系科目

第9問 (配点: 2)


次の【事例】について,学生A及びBが後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から③までの( )内に入る学生Aの発言として正しいものを後記【発言】から選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

【事例】

甲は,乙を殺害しようと考えたが,しらふでは殺害行為に及ぶ勇気がなかったので,多量の飲酒により自己を心神喪失状態に陥れて隣室で就寝中の乙を刺殺しようと考え,手元に包丁を用意して飲酒を開始し,計画どおり自己が飲酒のため心神喪失になった状態で乙の胸部を包丁で突き刺して殺害した。

【会話】

A. 甲の行為は,自己の責任能力のない状態を道具として利用する一種の間接正犯であって,自己を心神喪失状態に陥れる飲酒行為が殺人の実行行為であり,したがって,飲酒行為時に責任能力が認められる以上,甲には殺人罪が成立すると思う。

B. ただ,君のように考えると,仮に,甲が自己の心神耗弱状態を利用して乙を殺害する意思で殊更その状態に陥り,計画どおり乙を殺害した場合には,刑を減軽せざるを得ず,本件のように心神喪失状態で殺害した場合には完全な刑事責任が認められることとの不均衡が生じないだろうか。

A. (①)

B. 君の考えでは,甲が酔いつぶれて眠り込んでしまった場合にも殺人未遂罪が成立してしまうことになるが,それでは処罰範囲が広がりすぎるのではないか。

A. (②)

B. 責任能力は責任の要件ではあっても責任非難それ自体ではないのだから,実行行為を心神喪失時の行為と解しつつ,それより前の責任能力のあったときの意思態度について非難可能性が認められれば,行為全体について完全な責任を負わせても一向に構わないと思う。

A. (③)

【発言】

ア. 責任能力は単に意思決定能力にすぎないものではなく,行動制御能力でもあるのだから,責任能力は,やはり実行行為に対する同時的コントロールの問題と解すべきであって,実行行為時に存在すべきものではないのか。

イ. 本事例のような故意の作為犯についてはそう思えるかもしれないが,過失犯や不作為犯のように,実行行為の定型性が弱い場合には,飲酒行為に構成要件該当性を認めても問題はないと思う。それよりも,君のように実行行為の時点で心神喪失状態に陥っていても,甲に完全な刑事責任を負わせることの方が問題ではないか。

ウ. 私の立場からは,あたかも身分のない故意ある道具の利用の場合と規範的意味において同じように考え,心神耗弱状態を利用した場合にも原因において自由な行為の理論を認めることができると思う。

1. ①ア ②イ ③ウ
2. ①ウ ②ア ③イ
3. ①ア ②ウ ③イ
4. ①ウ ②イ ③ア
5. ①イ ②ア ③ウ

「平成20年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006413.pdf)をもとに作成

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