次の【事例】について,甲及び丙の行為がいずれも傷害罪の構成要件に該当するとした上で,後記の【見解】ⅠないしⅣを採って検討した場合,後記1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。
【事例】
甲は,自分に向けてけん銃を構えた乙から,「そこで腕を縛られて座っている丙の右腕をバットで殴って骨折させろ。そうでないとお前を射殺する。」と告げられたので,やむを得ず乙の指示に従って丙の右腕を目掛けてバットを振り下ろしたところ,丙は,殴打されるのを避けるためにやむを得ず,バットを持った甲の右腕を蹴り上げた。甲は,丙に蹴られたため右腕を骨折し,丙は,甲が振り下ろしたバットが軽く接触したにとどまったため,右腕に軽い打撲傷を負ったものの,骨折は免れた。
【見解】
Ⅰ. 刑法第37条第1項は,違法性阻却事由を定めたものである。ただし,形式的に同条同項の要件を充たす場合でも,犯罪者に利用されるなど,行為者が不法を行う側に立っているようなときは,同条同項の適用は認められない。
Ⅱ. 刑法第37条第1項は,違法性阻却事由を定めたものである。犯罪者に利用されるなど,行為者が不法を行う側に立っていたとしても,同条同項の要件を充たす場合には,同条同項の適用は認められる。
Ⅲ. 刑法第37条第1項は,原則として違法性阻却事由を定めたものであるが,被侵害法益と保全法益とが同価値である場合は責任阻却事由を定めたものである。ただし,形式的に同条同項の要件を充たす場合でも,犯罪者に利用されるなど,行為者が不法を行う側に立っているようなときは,同条同項の適用を認めるべきではない。
Ⅳ. 刑法第37条第1項は,原則として違法性阻却事由を定めたものであるが,被侵害法益と保全法益とが同価値である場合は責任阻却事由を定めたものである。犯罪者に利用されるなど,行為者が不法を行う側に立っていたとしても,同条同項の要件を充たす場合には,同条同項の適用を認めてよい。
1. Ⅰの立場によれば,甲の行為も丙の行為も違法性が阻却される。
2. Ⅱの立場によれば,甲の行為も丙の行為も違法性が阻却される。
3. Ⅲの立場によれば,甲の行為も丙の行為も責任が阻却され得るにとどまる。
4. Ⅳの立場によれば,甲の行為も丙の行為も違法性が阻却される。
5. Ⅳの立場によれば,甲の行為も丙の行為も責任が阻却され得るにとどまる。
「平成19年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006373.pdf)をもとに作成