次のⅠ及びⅡの【見解】は,一事不再理の効力が及ぶ範囲に関する考え方を述べたものである。これらの【見解】のいずれかを前提に後記【事例】における起訴の適法性について述べた後記1から5までの【記述】のうち,正しいものはどれか。なお,「常習特殊窃盗罪」とは,盗犯等の防止及び処分に関する法律第2条違反の罪をいう。
【見解】
Ⅰ. 一罪の一部を構成する犯罪事実について,前訴において有罪・無罪の判決が言い渡され確定したときは,一罪を構成する残りの犯罪事実のうち,前訴の第一審判決言渡し時までに行われた部分について,確定判決の一事不再理の効力が及ぶ。
Ⅱ. Ⅰの考え方が原則であるが,前訴において同時審判が事実上又は法律上不可能であった部分については,確定判決の一事不再理の効力は及ばない。
【事例】
甲は,平成○○年の3月1日(①)と5月1日(②)に窃盗を行い,7月10日,②の窃盗の事実で逮捕され,8月1日,同事実について常習特殊窃盗罪で起訴されたが,その後保釈された。甲の公判は,9月8日に弁論が終結し,9月15日に執行猶予付の有罪判決が言い渡され,9月30日に確定したが,甲は,保釈後の9月10日(③),9月20日(④)にもそれぞれ窃盗を行った。その後,甲は,12月1日(⑤)に行った窃盗で逮捕され,捜査の結果,⑤のほか①③④の各窃盗の事実が判明するとともに,これらが②の窃盗と常習特殊窃盗罪を構成することも明らかになった。
【記述】
1. Ⅰの考え方に立ったとき,①の窃盗を単純窃盗として起訴することは許される。
2. Ⅰの考え方に立ったとき,③の窃盗を単純窃盗として起訴することは許される。
3. Ⅰの考え方に立ったとき,④⑤の窃盗をそれぞれ単純窃盗として起訴することは許される。
4. Ⅱの考え方に立ったとしても,①の窃盗を常習特殊窃盗として起訴することが許されることはない。
5. Ⅱの考え方に立ったとしても,③の窃盗を常習特殊窃盗として起訴することが許されることはない。
(参照条文)盗犯等の防止及び処分に関する法律
第二条 常習トシテ左ノ各号ノ方法ニ依リ刑法第二百三十五条,第二百三十六条,第二百三十八条若ハ第二百三十九条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニ対シ窃盗ヲ以テ論ズベキトキハ三年以上,強盗ヲ以テ論ズベキトキハ七年以上ノ有期懲役ニ処ス
一 兇器ヲ携帯シテ犯シタルトキ
二 二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ
三 門戸牆壁等ヲ踰越損壊シ又ハ鎖鑰ヲ開キ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅,建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯シタルトキ
四 夜間人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅,建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯シタルトキ
「平成18年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006519.pdf)をもとに作成