因果関係に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。
1.甲が,殺害目的でVの首を両手で絞め,失神してぐったりとしたVを死んだものと誤解し,死体を隠すつもりでVを雪山に運んで放置したところ,Vは意識を回復しないまま凍死した。甲がVの首を両手で絞めた行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
2.甲が,心臓発作を起こしやすい持病を持ったVを突き飛ばして尻餅をつくように路上に転倒させたところ,Vはその転倒のショックで心臓発作を起こして死亡した。Vにその持病があることを甲が知り得なかった場合でも,甲がVを突き飛ばして路上に転倒させた行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
3.甲は,Vの頸部を包丁で刺し,Vは,同刺創に基づく血液循環障害による脳機能障害により死亡した。その死亡するまでの経過は,Vは,受傷後,病院で緊急手術を受けて一命をとりとめ,引き続き安静な状態で治療を継続すれば数週間で退院することが可能であったものの,安静にすることなく病室内を歩き回ったため治療の効果が上がらず,同脳機能障害により死亡したというものであった。この場合でも,甲がVの頸部を包丁で刺した行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
4.甲は,深夜,市街地にある道幅の狭い車道上に無灯火のまま駐車していた普通乗用自動車の後部トランクにVを閉じ込めて監禁したが,数分後,たまたま普通乗用自動車で通り掛かった乙が居眠り運転をして同車を甲の普通乗用自動車の後部トランクに衝突させ,Vは全身打撲の傷害を負い死亡した。甲がVをトランクに監禁した行為とVの死亡との間には,因果関係がない。
5.甲は,ホテルの一室で未成年者Vに求められてその腕に覚せい剤を注射したところ,その場でVが錯乱状態に陥った。甲は,覚せい剤を注射した事実の発覚を恐れ,そのままVを放置して逃走し,Vは覚せい剤中毒により死亡した。Vが錯乱状態に陥った時点で甲がVに適切な治療を受けさせることによりVを救命できた可能性が僅かでもあれば,甲がVを放置した行為とVの死亡との間には,因果関係がある。
「平成28年 短答式試験 刑法」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/001182605.pdf)をもとに作成