食品会社であるXが,食品を輸入しようとしたところ,検疫所長Yから食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの。以下「法」という。)第6条に違反する旨の通知(以下「本件通知」という。)を受けたため,その取消しを求めた事案において,本件通知が抗告訴訟の対象となる処分に当たるかどうかについて判断を示した最高裁判所平成16年4月26日第一小法廷判決(民集58巻4号989頁)の次の判示を読み,後記アからオまでの各記述について,誤っているもの二つの組合せを後記1から10までの中から選びなさい。
「食品衛生法違反通知書による本件通知は,法16条に根拠を置くものであり,厚生労働大臣の委任を受けたYが,Xに対し,本件食品について,法6条の規定に違反すると認定し,したがって輸入届出の手続が完了したことを証する食品等輸入届出済証を交付しないと決定したことを通知する趣旨のものということができる。そして,本件通知により,Xは,本件食品について,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり,(中略)関税法基本通達に基づく通関実務の下で,輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなるのである。」
(参照条文)食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの)
第6条 人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は,これを販売し,又は販売の用に供するために,製造し,輸入し,加工し,使用し,貯蔵し,若しくは陳列してはならない。
第16条 販売の用に供し,又は営業上使用する食品,添加物,器具又は容器包装を輸入しようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,そのつど厚生労働大臣に届け出なければならない。
(参照条文)関税法
第67条 貨物を輸出し,又は輸入しようとする者は,政令で定めるところにより,当該貨物の品名並びに数量及び価格(中略)その他必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受けなければならない。
第70条 (略)
2 他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,第67条(輸出又は輸入の許可)の検査その他輸出申告又は輸入申告に係る税関の審査の際,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならない。
3 第1項の証明がされず,又は前項の確認を受けられない貨物については,輸出又は輸入を許可しない。
ア.この判決は,行政庁の行為は,法律の根拠を有しない場合であっても抗告訴訟の対象となる処分に当たり得ることを明らかにしたものである。
イ.この判決によれば,法第16条は,「届け出なければならない」と規定しているが,厚生労働大臣に法第6条違反の有無を認定判断する権限を付与していることになる。
ウ.この判決は,検疫所長による本件通知に法的効力を認めたものである。
エ.この判決によれば,税関長は,本件通知の時点で,関税法第70条第3項に基づき輸入を許可しないという処分をしたことになる。
オ.この判決の考え方に立っても,輸入申告に対する税関長の拒否行為について取消訴訟を提起することは許されると解し得るが,同訴訟においては,法第16条の届出の対象となる食品等が法第6条に適合するか否かについては争うことができないとされる可能性がある。
1.アとイ
2.アとウ
3.アとエ
4.アとオ
5.イとウ
6.イとエ
7.イとオ
8.ウとエ
9.ウとオ
10.エとオ
「平成22年 短答式試験 公法系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000046901.pdf)をもとに作成