次の教授と学生AないしCの【会話】は,違法収集証拠の証拠能力についての最高裁判所の判例に関するものである。①から⑥までの( )内に入る適切な語句を後記の【語句群】から一つずつ選んで入れた場合,①,③,④及び⑥の( )内に入る語句の組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。なお,同じ語句を2回以上用いてもよい。
【会話】
教授. 最高裁判所は,昭和53年9月7日の第一小法廷判決で,捜査に違法があった場合の証拠能力の肯否について,「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定されるものと解すべきである。」と判示していて,「違法の重大性」と「排除相当性」という二つの要件を示していると思われるが 両者の要件の関係についてどう考えるべきか,みんなで議論してみよう。
学生A. 両者の要件がそろって初めて証拠が排除されるとする説,いずれか一方の要件があれば証拠が排除されるとする説,結局は「違法の重大性」が要件であるとする説などがあります。
学生B. この判決を素直に読めば,両者の要件がどちらも必要だ,つまり両者を言わば「かつ」の関係にあるものとして考えるのが最高裁判所の立場になるのではないでしょうか。
学生C. でも,その判決は,事案の結論として証拠能力を肯定するに当たって,「本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいいえないのであり,これを被告人の罪証に供することが,違法な捜査の抑制の見地に立ってみても相当でないとは認めがたいから,本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである。」と判示していて,両者の要件を併せて検討しています。これに注目すれば,最高裁判所は,例えば「違法の重大性」がなくても「排除相当性」が認められるので証拠能力を否定すべき場合があると考えている,つまり,両者の要件を(①)の関係にあると考えていると解読する方が説得力があると思います。
教授. この判決は,念のため,あるいは,確認的に,「違法の重大性」も「排除相当性」もない事案だと述べたにすぎないと考えることもできるのではないかね。
学生C. そもそも違法収集証拠排除法則の根拠であると言われている「司法の廉潔性」と「違法捜査の抑止」という別個独立の根拠が,それぞれ「違法の重大性」と「排除相当性」の要件に反映していると考えられ,両者は,(②)の関係にあると考えるべきだと思います。
教授. ところで,平成15年2月14日最高裁判所第二小法廷判決は「本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていないという手続的な違法があるが,それにとどまらず,警察官は,その手続的な違法を糊塗するため,(中略)公判廷において事実と反する証言をしているのであって,本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである。」と判示していて,公判廷で偽証したことを(③)の要件の中で検討しているよね。
学生A. 捜査行為の違法性判断は(④)に存在した事情を基礎として考えるのが一般的な判断手法です。違法な逮捕後に示された警察官の法軽視の態度からさかのぼって逮捕手続における(⑤)を認めるのはちょっと無理ではないでしょうか。
学生C. でも,捜査官の捜査行為時における主観的意図を推認する限りで,公判廷で捜査官が虚偽の証言をしたという事情を(⑥)の判断要素の一つにすることは可能だと思います。
【語句群】
a. 排除相当性
b. 証言当時
c. 「又は」
d. 軽微な違法性
e. 行為当時
f. 違法捜査の抑止
g. 裁判当時
h. 「かつ」
i. 違法の重大性
j. 司法の廉潔性
1. ①c③i④e⑥i
2. ①c③a④e⑥i
3. ①c③d④b⑥a
4. ①h③j④g⑥j
5. ①h③i④g⑥i
「平成18年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006519.pdf)をもとに作成