次の【会話】は,学生AとBによる,おとり捜査(捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査方法をいう。)に関する議論である。この【会話】中の①から⑥までの( )内に後記アからクまでの【記述】の中からそれぞれ最も適切なものを選んで当てはめた場合,いずれの( )内にも入らない【記述】の組合せは,後記1から5までのうちどれか。なお,同じ【記述】は1回しか用いてはならない。
【会話】
学生A. 私は,おとり捜査は,(①)から,「強制の処分」に当たり,法律に特別の定めがない以上,許されないと思うわ。
学生B. 「強制の処分」に関する最高裁判所の判例の考え方を前提とすれば,おとり捜査は,(②)から,「強制の処分」には当たらないと考えるべきだよ。
学生A. 百歩譲って任意捜査だとしても,おとり捜査は,本来犯罪を防止すべき捜査機関が詐術的手段を用いて相手方に犯罪を実行させこれを検挙するものだから(③)という観点からは,おとり捜査を行う必要性や相当性が認められることが,おとり捜査が許されるための要件と考えるべきでしょうね。
学生B. 必要性や相当性の要件については,おとり捜査が,(④)という観点から考えるべきだと思う。このように考えることによって,第三者が被害者となる殺人や窃盗等についてのおとり捜査が原則として適法とされないことの説明が容易になるのではないかな。
学生A. ところで,(⑤)から,おとり捜査は,例えば,被疑者が既に大麻を所持しているという嫌疑があって,当該所持事犯の捜査の方法として行われるときに限って許されるべきよ。
学生B. (⑥)から,おとり捜査が許されるのは,既に犯罪が行われている場合に限られないと考えるべきだよ。
【記述】
ア. 将来発生する高度の蓋然性がある犯罪について,その検挙や証拠収集を目的として捜査を行うことも許される
イ. いわゆる機会提供型であれば許されるが,いわゆる犯意誘発型は許されない
ウ. 捜査の公正さや廉潔性に問題があり得る
エ. その相手方の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えるものではない
オ. 捜査機関等が相手方への働き掛けによって犯罪という法益侵害又はその危険を惹起するものである
カ. 刑事訴訟法の捜査は,既に行われたか又は現に行われつつある犯罪について行われるものである
キ. 捜査の対象となっている犯罪の嫌疑の程度,その重大性,おとり捜査の相手方の犯罪への関与の程度,捜査の困難性等を総合考慮して判断される
ク. 国家の干渉を受けることなく独自に意思決定をする自由を実質的に侵害する行為である
1. ア ク
2. イ エ
3. ウ オ
4. カ ウ
5. キ イ
「平成18年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006519.pdf)をもとに作成