刑法第1条に関する次の【見解】を採って後記1から5までの各記述を検討した場合,誤っているものはどれか。なお,日本国民が被害者である場合を除き,殺人罪に関する国外犯処罰規定はないことを前提とする。
(参照条文)刑法
第1条 この法律は,日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても,前項と同様とする。
【見解】
「刑法第1条第1項は,日本国内に犯罪地がある場合に刑法を適用する属地主義の原則を規定しているが,同項の『罪を犯した』とは,犯罪を構成する事実の全部又は一部が生じたことをいう。なお,狭義の共犯の場合,正犯行為が行われた場所が共犯の犯罪地になるほか,共犯行為が行われた場所も共犯の犯罪地になるが,共犯行為が行われた場所は正犯の犯罪地にはならない。」
1. 外国人(日本の国籍を有しない者をいう。以下同じ。)甲は,日本人乙が日本国内で日本人丙を殺害するために使うことを知りながら,某外国のホテル内で,乙にナイフを貸したが,その後,乙は,日本国内で,そのナイフを使って丙を殺害した。甲に刑法(殺人幇助罪)が適用される。
2. 外国人甲は,日本国内で,外国人乙を殺害するために同人に毒薬を飲ませたが,その後,乙が乗船した某外国船舶が公海を航行中,その船舶内で,乙は,この毒薬の効果により死亡した。甲に刑法(殺人罪)が適用される。
3. 外国人甲は,外国人乙が某外国で外国人丙を殺害するために使うことを知りながら,日本国内で,乙にピストルを貸したが,その後,乙は,某外国のホテル内で,そのピストルを使って丙を殺害した。甲に刑法(殺人幇助罪)は適用されない。
4. 3の事例で,乙に刑法(殺人罪)は適用されない。
5. 外国人甲は,公海の上空を飛行中の日本航空機内で,外国人乙を殺害するために同人に毒薬を飲ませた。その後,その航空機が悪天候のため飛行途中で某外国の飛行場に着陸した際,体調が悪化した乙は同国の病院に搬送され,その病院内で,この毒薬の効果により死亡した。甲に刑法(殺人罪)が適用される。
「平成18年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006519.pdf)をもとに作成