次の【事例】の甲について,強姦罪(刑法第177条)だけではなく強盗罪(刑法第236条第1項)の成立を認める見解と明らかに矛盾する記述は,後記1から5までのうちどれか。
【事例】
甲と乙は,V女を強姦しようと企て,共謀の上,暴行・脅迫を加えてV女を姦淫した。その後,乙は,強姦されて抗拒不能の状態になった同女に対し,更に執拗にわいせつ行為をしたが,甲は,見張りをしていた。その際,甲は,足下にV女のバッグがあることに気付き,財物奪取の犯意を生じ,乙がわいせつ行為を続けていて甲を見ておらず,また,強姦されたことに加え,執拗にわいせつ行為をされたことによってV女が全く反抗できない状態にあることを確認し,バッグ内から現金を取り出して自分のズボンポケットに入れた。
1. 他の目的による暴行・脅迫で被害者が反抗抑圧状態になった後に財物奪取の犯意を生じ,財物を奪取した事例において,犯意を生じた後,財物奪取の手段となる新たな暴行・脅迫が全くなく,単に反抗抑圧状態に乗じて財物を奪取したにすぎない場合に強盗罪の成立を認めることは,強盗の場合には強姦の場合の準強姦罪(刑法第178条第2項)のような規定がないのに,それと同じような行為を強盗罪として処罰することになり,罪刑法定主義に反し許されないと解すべきである。
2. 他の目的による暴行・脅迫で被害者が反抗抑圧状態になった後に財物奪取の犯意を生じ,財物を奪取した事例において,犯意を生じた後,財物奪取の手段となる新たな暴行・脅迫がある場合は強盗罪の成立を認めることができる。ただし,その暴行・脅迫の程度について,一般的に,通常の強盗の場合に比べ軽い程度のもので足りると解すべきではない。
3. 財物奪取の手段となる新たな暴行・脅迫がある場合に強盗罪の成立を認める点において,2の記述と同じである。なお,その暴行・脅迫の程度について,強姦が先行するような事例では,通常の強盗の場合に比べ軽い程度のものでも足りる場合があると解すべきである。ただし,新たな暴行・脅迫があるというためには,財物を奪取した行為者自身がその暴行・脅迫を行う必要があると解すべきである。
4. 本件において,強姦後の乙のわいせつ行為は,強姦の共謀に基づくもので甲も罪責を負うべき共同の暴行行為であると解すべきである。
5. 本件において,仮に,甲が財物奪取の犯意を生じた時点で,V女が強姦されて意識を失っていた場合には,窃盗罪が成立するにとどまり,強盗罪の成立を認めることはできないと解すべきである。
(参照条文)刑法
第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は,強姦の罪とし,3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も,同様とする。
第178条第2項 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,姦淫した者は,前条の例による。
「平成18年 短答式試験 刑事系科目」(法務省)(https://www.moj.go.jp/content/000006519.pdf)をもとに作成